内川研究室の紹介
内川惠二

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■目的

私たちは普段何気なく見ている世界がそのままありのままの姿であると思っている。しかし、私たちが見ている世界は、実は眼から入った光の情報が視覚系を通り脳によって解釈された結果、脳内に創られた「視覚世界」である。人間の大脳皮質の半分以上がこの「視覚世界」を構築するために使われている。内川研究室では、視覚−脳系が如何にしてこの「視覚世界」を創り出すのかという視覚情報処理・認識メカニズムを解明するとともに、その応用をめざしている。

具体的には、心理物理学的手法により色覚、色認識、周辺視野、空間視、運動視、記憶、注意、眼球運動などの視覚機能を調べ、そのメカニズムを明らかにする基礎研究、および人間の感覚知覚特性に合致した視覚情報表示システムを構築するなどの応用研究を行っている。


■研究テーマ
1.視覚心理物理学とは視覚−大脳系のメカニズムを調べる一つの方法である。被験者に様々な光や画像パターンなどの(物理)刺激を見せ、被験者からの(心 理)応答を取る。この物理と心理の入出力関係から視覚特性を明らかにし、そのメカニズムを解明する手法を視覚心理物理学という。

2.色恒常性と色覚メカニズム
 図1の上下の画像では,照明光の色(分光特性)が変化し、上は白色、下は青色になっている。しかし、私たちの眼には、上下のどちらのレモンも黄色く見え る。これが色恒常性と呼ばれている視覚特性である。私たちの視覚系は眼に入る物体表面の反射光から照明光成分を取り除いて、物体表面に対応した色を知覚す ることができる。これは
(反射光)=(表面反射率)X(照明光)
から(表面反射率)を抽出するという物理的には不可能なことを視覚系は簡単に行っていることになる。レモンの黄色を取り出して、(反射光)だけを見ると黄 色には見えない。内川研究室ではこのような視覚系の持つ高度な色覚メカニズムの解明をめざしている。
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図1 照明光の変化による色の見えの変化

3.質感知覚メカニズムの解明
質感は色と同様に表面を同定する重要な特徴である。図2は光沢の無い表面(左)光沢のある表面(右)を示しているが、色の見えも光沢の有無で黄色と金色に なり、異なったカテゴリーの色となる。物体表面の色の見えと質感には互に強い関連がある。内川研究室では、表面のどのような特性が光沢や透明感といった質 感知覚を生むか、この質感と色の見えの関係はどうなっているかを心理物理実験より明らかにして、質感知覚のメカニズムの解明をめざしている。


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図2 黄色の表面に光沢を付けると金色になる。

4.カテゴリカル色知覚
視覚系の色を識別する能力はきわめて高く、私たちは100万個以上の色を見分けることができるといわれている。しかし、日常生活では様々な色をすべて表 現しているわけではなく、いくつかのカテゴリーに分類している。たとえば、図3の中には、明るい青、暗い青、緑っぽい青など様々な“青”があるが、このよ うな異なる色に“青”という色名を付けて呼んでいる。これがカテゴリカル色知覚である。カテゴリカル色知覚は多くの言語で共通であり、チンパンジーにも備 わっている。内川研究室ではこの高次色覚メカニズムであるカテゴリカル色知覚特性の解明を進めている。


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図3 異なる色でも同じ“青”と呼ぶ。

5.視覚的注意による情報選択
私たちが同時に扱える視覚情報には限界がある。たとえば、図4に示したように両面の中央に注意を向けるとその周辺の物は見えにくくなる。視覚的注意とは私 たちの行動に支障がない
ように視覚情報の適切な情報選択を行っている機能である。内川研究室では大視野における視覚的注意の検出感度、コントラスト感度、奥行き弁別感度などの初 期視覚機能へおよぼす影響
を調べ、情報選択のメカニズムを明らかにしている。

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図4 画面の中央に注意を向けると周辺刺激の検出能が劣化する。

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連絡先:
内川惠二
神奈川大学  マルチモーダル研究所
〒221-8686 神奈川県横浜市神奈川区六角橋3-27-1
E-mail: uchikawa.k.aa@m.titech.ac.jp
Home page: http://multimodal-research.kanagawa-u.ac.jp/uchikawa-lab/indexJ.html